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虚像
「虚飾のエリシア」

時空が折れ、空間が裂け、意味さえも歪む場所。
そこに“それら”は在った。

四つに分かたれた存在。
だが、そのすべては一つの存在を名乗っている。それは……エリシア。

 

神のように振る舞う、偽りの四柱。
虚飾の名を冠したエリシアだった。

「はぁ? また弱いの来たの?」

アマラは、倒れ伏した冒険者をつまらなそうに見下ろす。
小さな体を揺らし、口元を歪めた。

 

「ねえねえ、もうちょっと頑張ってよ。弱くしすぎちゃったかなぁ?」

 

指先がわずかに動く。
その瞬間、冒険者の身体から力が剥がれ落ちた。

 

『やめ……ろ……』

 

「えー? まだ喋れるんだ。じゃあ、もっと削っちゃお♪」

「アマラ、あまり弄びすぎるのは良くないよ」

 

穏やかな声が割り込む。

トトは光を纏い、静かに歩み寄る。
 

周囲には黄色の粒子が舞い、歪んだ空間すら整えていく。

「アマラ、君はもっと正々堂々……って、またやってる」

 

「あはっ! ごめんごめん、聞いてなかった~!」

 

二人のやり取りを横目に、黒髪長髪の男が笑い出す。

「ほら、これで綺麗だ。ははっ……ははははははっ!」

血が宙に浮かび、笑い声とともに震える。
 

コンムは顔を歪め、恍惚とした声を漏らした。

「今の見た? 消える前の顔……最高だろ?」

空中の血を掴み、指先で潰す。

 

「傷ってさぁ……いいよねぇ……壊れてる証明だよ?」

一瞬、間を置いて

「……でも、俺は違う」

 

腕を広げる。

「どこにも傷がない。完璧なんだよ、俺は」

彼の周囲を漂う血は、すべて返り血だった。

 

「……下らない」

高く、静かな声が落ちる。

 

カイヒメが、空間の上方から見下ろしていた。
青い光と白い長髪が、ゆるやかに揺れる。

 

「その程度の遊戯に、よくもそこまで熱を上げられるものですね」

目を細める。

「所詮は人間。観察対象としては興味深いですが、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

四人は、それぞれの愉悦に浸っていた。

人間は劣等。
自分たちは上位。

その認識に、疑いはない。

 

---

 

「ねぇ~、負けたんだけど~!」

「これで敗北は3、4回目でしょうか。強い冒険者もいるものですね。切り替えていきましょう」

銀髪の冒険者が現れ、四柱は打ち倒された。

 

「チッ……俺にあれだけの傷を……」

「まあまあ、そういうときもありますよ。数十年に一度のことです」

敗北はあった。
だが、上位であるがゆえに、受け入れもまた早い。
それこそが“エリシア”として本来あるべき姿だと、彼らは信じて疑わなかった。

---

……その時だった。

 

「ねえ、楽しそうだね」

 

軽い声が、割り込む。

空間が止まる。
歪みが揺らぐ。

四人が同時に振り向いた。

 

そこにいたのは……形容しがたい何か。
明らかに、異質だった。

 

「誰?」
アマラが眉をひそめる。

「新しい遊び相手? でもさ、弱そうだよ?」

「……妙だね」
トトが目を細める。
「歪みが、整理できない」

「ねえねえ」
コンムが興奮したように近づく。
「キミ、傷ある? 見せてよ」

 

「……」
カイヒメはただ見つめる。
「……観測不能。理解不能。……不快です」

"ソレ"は、にこりと笑った。

「うん、いいね。すごくそれっぽい!」

首を傾げる。

「君たちさ、エリシアごっこしてるんでしょ?」

 

沈黙。

 

「は?」
アマラの声が低くなる。

「なにそれ。意味わかんないんだけど」

 

「だって君たち、エリシアじゃないよ?流石にわかってると思ったんだけどなぁ~?」

空間が、軋む。

 

「……訂正を求めます。」
カイヒメの声が冷たく落ちる。
「我々はエリシア。それ以外の何でもありません」

 

「ううん、違うよ」

ソレはあっさりと言い切った。

「君たちは、エリシアっぽく振る舞ってる無名の存在。断じて本物じゃない」

「……消す」
トトが一歩踏み出す。
「あなたは歪みとして処理する」

 

「ははっ、いいねぇ!!」

コンムが笑う。
「壊してみようよ!!」

 

「雑魚のくせに生意気だし」
アマラが手を振る。
「とりあえず、ね?」

 

「……では、観測の終了です」
カイヒメが静かに手をかざす。

 

四つの力が、同時に向けられる。

相手のステータスは1000垓分の1に。
歪力は最低限に収束していく。
エリシア達は10ターンごと以外のダメージは無効化され、
相手は追加攻撃を放てなくなった。

四柱のエリシアの最大出力。
そのすべてが、一斉に牙を剥いた。

 

ソレは、笑った。

「えへっ、やっぱり違う。」

 

少女は、一歩踏み出す。
それは、攻撃ですらなかった。

 

ただの接触。
ただの、存在の重なり。

 

……四人が、消えた。

「あ……」

 

アマラの声が、かすれる。

「体……動かない……」

今度はアマラ自身に、ちょうど十倍のデバフが襲いかかった。

 

「なぜ……その歪みは、我々にあってはならないもので……!」

歪力は爆発的に増大する。
億、兆、京……際限なく。

 

「なんで……だめだ、それは……!」

コンムの身体に、無数の傷が走る。
どんな傷も通さないはずの肉体は、完全に無効化されていた。

 

「……理解、不能……」

カイヒメの視界が砕ける。
ソレは、たった一度の干渉で五つのスキルを同時に行使していた。

 

ソレは、くすりと笑った。

 

「だから言ったでしょ?」

「君たち、本物じゃないって」

 

四つの存在は、歪んだ因果へと引きずり込まれていく。

存在の根拠が剥がれ、
エリシアという偽りが、崩れていく。
そして、ソレは手を振った。

「ばいばい。まあ、暇つぶしにはいいかな?」

 

……すべてが、消えた。

静寂。その後、遠くで笑い声が響いた。

 

歪みは消え、空間は戻る。
何事もなかったかのように。

 

ソレは、一人立っていた。

「ふふ。楽しかった」

 

少し考える仕草をして、

「またそれっぽいのがいたら、遊ぼうかな」

 

無邪気に。
無意味に。
絶対的に。

 

ソレ……"愉快なるエリシア"は、そこに在った。

 

その存在は、四柱を打ち負かした銀髪の冒険者へと、ただ一つ視線を向ける。
そして、無邪気な笑みを浮かべた。

 

「エヘっ!」

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